国民国家が芸術に与える影響 - 旧ユーゴスラビア諸国の場合
ニューヨーク大学大学院修士論文
渡辺真也
T イントロダクション
国民国家とナショナリズムは芸術、アーティスト、そして美術展示に関して悪影響を及ぼしかねない問題のある構成物である。冷戦の終結は世界のパワーバランスにおける変革をもたらしたが、それは特に旧共産圏における世界中のナショナリズムに様々な影響を与えた。ユーゴスラビアの場合は、共産主義体制の崩壊と経済的混乱がナショナリズムの誘惑を直接引き起こし、そして地域における政治家がこのナショナリズムをマス・メディアによって煽り立てた結果、血みどろの戦争を招く事態となった。
旧ユーゴスラビアの状況に直面したアーティストが何人かいる。例えばマリーナ・アブラモビッチ、サンヤ・イベコビッチ、スーザン・ソンタグ、メアリー・ケリーとマイケル・ナイマンがそうである。これらのアーティストに対する評価は複雑な状況に巻き込まれてしまったが、それは彼らへの評価が国民国家の構造によって決定しているからである。戦争とは国民国家間の闘争であるが、さらにアーティストへの評価も、国民国家の内部と外部で決定する。なぜならそれは近代において国民が民主主義によって国家、つまり国民国家を創造してきたからである。
さらに、歴史は常に勝者によって書かれてきた。つまり、連綿と続く美術史上の批評において美術作品の価値を評価してきた人たちは、歴史の勝者達であった。
私はユーゴスラビアにおける問題を調査する事で、国民国家と芸術の問題を確認し論ずる事で可能な、何らかの答えを見つけていきたいと思う。
a. ギリシャの都市と古代ローマ
b. カールの戴冠
c. 商業都市国家の成立
d. 近代的国民国家の生成
e. フランス革命、ナポレオン戦争とスペインにおけるパルチザン
f. クロアチアとスロベニアにおけるナポレオン戦争の影響
B. 20世紀ヨーロッパ
a. カール・シュミットとパルチザンの理論 – ナチズムの誕生
b. マルクス・レーニン主義の混合 パルチザン闘争の創造物としてのユーゴスラビア
c. 内部と外部の新しい定義
d. ナショナリズム定義の違い – エドワード・カー、ハンナ・アレントとベネディクト・アンダーソン
e. 言語ナショナリズムとセルボ・クロアチア語の創造
A. パワー・ダイナミクス
a. チトーの死以前におけるユーゴスラビア
b. ユーゴスラビアの多様性
c. チトーの死とユーゴスラビアの崩壊
d. 資本の流入と移り変わる視点
f. クロアチアの独立とドイツの役割
g. クロアチアの独立に対する国際的承認
h. ボスニアにおける新しい問題
i. アメリカ合州国の役割
j. ボスニアの新しい火種
a. ボスニア政府のルーダーフィン社との契約 – 内戦から独立戦争への変換
b. 強制収容所からの偽のレポート
c. 国際的認識の高まり – 介入を正当化する声
d. 国連とNATOの変化してゆく機能
e. コソボ紛争
f. コソボ解放軍の出現
g. NATOによるセルビア軍および都市への空爆
h. コソボにおけるメディア報道 - コソボにいる人は誰? - アメリカ合州国およびヨーロッパ諸国の戦略
A. 解釈および適切な開催地を見つける困難
a. スーザン・ソンタグによる「ゴトーを待ちながら」の演出 – サラエボ市民の為に?
b. 彼女のボスニア人ムスリムへの同情
c.
NATOの介入に関するソンタグの理論
d. ソンタグのコソボ紛争以降における立場
e. KLAの変わり行く役割: テロリスト・グループからフリーダム・ファイターへ
f. ランブイエ和平条約 – ヨーロッパによる政策の崩壊
g. NATO空爆に反対する知識人たち
h. ソンタグに対する世評– ネーションの内部と外部で
i. ソンタグへの平和賞と国民国家の関係
マリーナ・アブラモビッチのベネチア・ビエンナーレにおけるパフォーマンスと、サンヤ・イベコビッチのサンパウロ・ビエンナーレでのパフォーマンス「ミス・クロアチアとミス・ブラジルがジジェクとチョムスキーを読む」比較
a.
戦時中におけるベネチアでのユーゴスラビア代表
b. ヨーロッパ最大のビッグネームであるマリーナ・アブラモビッチはキュレーターによって守られた
c. ベネチア・ビエンナーレにおけるキュレーターによる保護
d. サンヤ・イベコビッチの場合 - クロアチア出身でザグレブで活躍するアーティスト
e. サンヤ・イベコビッチの批判的視点
f. サンパウロ・ビエンナーレへの招致
g. クロアチアにおけるキュレーター及び批評家の反応
h. サンヤ・イベコビッチの事例の重要性
C. 誰が解釈するのか?
a. 「バルカン」のイメージに関する国際的認識 – ヨーロッパによるステレオタイプ・イメージとポリティカル・コレクトネス
b. リベラリズムとナショナリズム国家によって創造された民主主義におけるパレート効率ジレンマ
A. 地域における展示問題 – メアリー・ケリーとマイケル・ナイマンによる「カストリオット・レクジェピのバラード」の場合
a. 1999年7月31日ロサンジェルス・タイム紙の記事
b. メアリー・ケリーによるオペラ「カストリオット・レクジェピのバラード」
c. 彼女の精神分析的アプローチ
d. なぜヨーロッパでなく、カリフォルニアなのか?
B. 大文字の歴史の中における勝者と敗者
a. 歴史の救済 – 歴史は常に勝者によって書かれる その為歴史の救済が必要である
a.
国民国家のオルタナティブを探す必要性
b. 民主主義における意思決定の方法を打開する必要性
c. グローバル・キャピタルの問題を解く必要性 – オルタナティブとしてのニュー・アソシエーション・ムーブメント
d. マスメディアによる悪影響を排除する必要性
※本論分は、私が2004年5月に発表した修士論文”The
Influence of the Nation-State on Art - The Case of the Former Yugoslavian
Countries”の日本語版です。英語で書かれた論文からの翻訳の為、読みにくい所が多々あるかもしれませんが、ご了承下さい。